夢路いとし喜味こいし師匠の漫才ネタ
いろし・こいし師匠を知ってますか?
上方漫才の好きな方はご存知だと思いますが、非情に上品な漫才をされた方です。
お亡くなりにはなってますが、安心して楽しめるネタを提供していただけました。
今日はその漫才からネタを。
いとし:あのね
こいし:はいよ
いとし:僕は心に一つだけ決めてることがあんねん
こいし:ほう。なにか決めたか?
いとし:聞いてびっくりしたらあかんよ
こいし:どういうこと?
いとし:これだけは絶対僕は言わんとこうと思うことがあんねん
こいし:言わんということはどういうこと?
いとし:「近頃の若い者は」とか
こいし:はぁはぁ
いとし:「わしも歳や」とか
こいし:へへへ
いとし:ああいうことは絶対言わんとこうと思って
こいし:「近頃の若い者」とか「私は歳や」ちゅなことは言わんと
いとし:あんなこと言うとったら、この時代に乗り遅れてしまうもんね
こいし:ほな君な、そんなこと言うから楽屋で若い連中が「いとし師匠はええかっこしいや」言うとんねやぞ
いとし:なに?
こいし:ええかっこしいや言われとんにゃぞ
いとし:近頃の若い者はほんまにもう…
こいし:そんなこと言われて君、腹立たんか?
いとし:なに?
こいし:腹立たんか?
いとし:そら腹は立つわいな
こいし:ほなやっぱり怒るか?
いとし:いゃ〜わしも歳やからな
こいし:言うとるやないか!全部言うとるやないか
いとし:こういうのは口ぐせになってんのかね?
こいし:もう我々の年代になるとやっぱりバッと口ぐせで出るね
いとし:よう皆さんも歳とったら言うこと
こいし:まあよくそう、昔は良かったちゅうなことよう言うやろがな
いとし:昔は良かった
こいし:昔は良かったて
いとし:それは本当やで
こいし:んなことないよ
いとし:んなことない、昔は良かったよー
こいし:いやいや、そんなことない。今の方がずっといい
いとし:昔が良いってこと、僕は痛感してるもん
こいし:なんで痛感しとる?
いとし:僕は今あんた、こんにゃく食うんでもたいがい難儀してるで。昔は固いせんべいでもバリバリ食えたもんあんた
こいし:そら入れ歯になったからやろが
いとし:僕は今、子ども作れ言われてもよう作らんで。昔は作んな言われても…
こいし:あほなこと言うな!
いとし:昔は良かったちゅうねん
こいし:そら君個人だけのことやろ?
いとし:僕個人ちゃう、嫁はんも協力してやねあんた、どんどん作って
こいし:子どもの話やめとけ。そらやっぱり今の方が、現代の方がよろしい
いとし:現代の何がええねん?
こいし:例えば、建物1つ見たってそうでしょう
いとし:建物?
こいし:住まいというか住居と言いますか
いとし:あの建築物やね
こいし:なに?
いとし:建築物やね
こいし:建築物、見たって分かるやろが
いとし:なんやねん?
こいし:昔は手で開けなんだら戸が今あんた踏みやあスッと開くねんから。な?2階上がるのでもあんた別に、立ってるだけでスッと上がるエスカレーター、エレベーターがあんにゃから
いとし:そんなことするからだんだん体が弱ってくんねで?
こいし:ほうか?
いとし:そんな家入るぐらい手で開けんかいな
こいし:手で開ける
いとし:ウチとこの家見てみな?蹴飛ばさな入られへんで
こいし:あれ家いがんどるからやな
いとし:そのぐらい体力使わなんだらあかんねんそんなん
こいし:君とこの家なんか古いウチやないかあんな
いとし:ほっといてぇな古いて
こいし:古いウチやで
いとし:そない古いか?
こいし:そやろが今ごろ瓦葺きの家なんちゅうのはあらへんにゃぞ
いとし:アホなこと言うな
こいし:あ?
いとし:日本建築の美を知らんね?
こいし:なにが?
いとし:日本建築言うたら瓦葺きですよ
こいし:おう
いとし:雨が降ってもあんなビルディングなんかなんやねんな?
こいし:なにが?
いとし:愛想がないがな
こいし:愛想ないか?
いとし:瓦葺きで雨が降る。下を蛇の目傘で通る
こいし:ほう
いとし:感じ良いでぇ
こいし:蛇の目なんちゅうのは
いとし:瓦葺き言うたらね。昔は角角に鬼瓦ちゅうのがあって
こいし:あれ魔除けっちゅうやつや
いとし:怖い顔したやつがあんねん
こいし:そうそうそう
いとし:鬼瓦で思い出したけど嫁はんどないしてんねん?
こいし:おかしなことで嫁はん思い出すなアホ
いとし:僕はねあの、怖いものとか汚いもの見る時、君の嫁はん思い出すねん
こいし:けったいなやっちゃなしかし
いとし:ご創建でいられますか?
こいし:やかましい。そんな建物もそうやけど、なんか乗り物なんかでもやっぱり現代の方がよろしい
いとし:なんで乗り物がええの?
こいし:ちょっと遠く行こう思ったって、君らの時代やったらカゴしかなかったやろ?
いとし:ほなぼくは徳川生まれちゅうことか?
こいし:今見てみ、新幹線はあるわ。飛行機はあるわあんた、この頃宇宙まで行ってんねんで。ボイヤなんちゅうの見てみ?あんなもん
いとし:ボイヤもカイヤもあるか!
こいし:あ?
いとし:宇宙宇宙て喜ぶな!
こいし:なんでこの頃宇宙行ってるやないか
いとし:宇宙は今汚染されてんねんで
こいし:あ、そうなん
いとし:宇宙はどないなるか分からへんねんで
こいし:なんかなんか大気汚染とかあるよ
いとし:宇宙だけちゃうであんた?
こいし:えぇ?
いとし:海でもそうやで
こいし:海も?
いとし:海洋汚染
こいし:よくあるな
いとし:海の水も汚なってんねんで
こいし:あそうや
いとし:だから最近の海の魚見てみいな
こいし:なにや?
いとし:うがいしながら泳いでるちゅうねん
こいし:塩水やからか?
いとし:そうや
こいし:アホなこと言うな
いとし:山かってそうやで
こいし:山がなんや?
いとし:山の木が生えてるとこを伐採するやろ?
こいし:まあまあこうあれするからね
いとし:そんなことするから、雨が降ったら土砂崩れや
こいし:これはいかんなあ
いとし:土砂崩れであの川ん中いろんなもの捨てるから、川が汚染された
こいし:なんかあのブツブツな
いとし:ヘドロちゅうやつや
こいし:あ、ヘドロヘドロ
いとし:ヘドロで思い出したけど、嫁はんどないしてる?
こいし:こら!なんでウチの嫁はんがヘドロで出てくんねん
いとし:つい思い出したもんやから
こいし:思い出すなそんなもん
いとし:便利になった便利になった言うてね
こいし:便利やがな
いとし:なんでも使い捨て
こいし:はあ
いとし:考えてごらん
こいし:使い捨てがあるな
いとし:空き缶なんかその辺の街で全部転がっとるやろ
こいし:そうやねえ
いとし:空き缶だけやあれへんで
こいし:えー?
いとし:繁華街行ってみいな
こいし:なんや?
いとし:飲食店がズラっとあるやろ?
こいし:ほうほう
いとし:食べ残したもんがバッと捨てたあんねん
こいし:朝早うカラスやあんなんが来てゴミ箱漁っとるもんなあ
いとし:ゴミがぐちゃぐちゃやでえ。ウジがバーッと沸いて
こいし:うん
いとし:君とこの嫁はんは…
こいし:もうええ!
いとし:僕はだからね。これからは昔に戻ろうちゃう運動しようと思うねん
こいし:昔に戻ろう運動
いとし:昔になれば海も綺麗になる!
こいし:海も川も綺麗になる!
いとし:山も綺麗になる!
こいし:山も綺麗になる!
いとし:しかし、いくら昔に戻っても綺麗にならないものがある!いくら昔に戻っても1つだけ綺麗にならないものがあーるー!
こいし:分かった!ウチの嫁はんやろ!
いとし:誰の思いも一緒やわ
これ、是非とも楽しんでいただきたい漫才です。
このネタからいとこい師匠のよさとか、今のようにテンポの良い漫才ではなく、ゆったりとしたテンポの、ちょっと前のネタも見直していただきたいものです。