落語のまくら 小噺をひとつ。
私が落語に関心を持ったのは、小学生の頃でした。
NHKの番組だったと思いま。
日本の話芸だったかな?
若い噺家さんでした。
今ならわかる、上方の落語。
桂米朝師匠でした。
面白かったです。
小噺だけで席を一つ上げちゃうんですよ。
すごい!
今日は侍の小噺
武士「こりゃこりゃ可内(べくない)」
可内「ねい」
武士「きょうの昼飯の采(さい)は何じゃ?」
可内「えぇ、筍でございます」
武士「ほ~ぉ、筍とは珍味じゃが、いずかたよりか到来をいたしたか?」
可内「到来はいたしませんので」
武士「しからば八百屋にて買い求めたか?」
可内「買い求めもいたしませんので。」
武士「買い求めもせず、到来もせぬ筍が、どぉして家(うち)にあるな?」
可内「いや、お隣りの筍がね、こっちの庭へ頭出しよりましたんで、それを掘り取
りました」
武士「何といぅことをいたす『渇しても盗泉の水を飲まず』とは古人の戒め、隣家
のものを無断にて掘り取るといぅことはあるものか、たわけめ。」
武士「とは言ぅものの、わしもそぉいぅことは好きじゃ」
可内「あぁビックリした。旦那もお好きですかいな」
武士「しかし一応隣家へ答えねばいかん、これから行ってまいれ」
可内「何と言ぅてまいりますかな?」
武士「そぉじゃな……、慌ただしゅ~走り込め。」
武士「不埒(ふらち)でござる、不埒でござる。不埒分明(ふらちふんみょ~)、
不埒(ふら)フッタイでござる。ご当家様の筍が手前屋敷へ
泥脛(どろずね)を踏み込みました。戦国の世ならば間者(かんじゃ)
も同様なやつ、召し捕って手討ちにいたしますゆえ、その段ちょっ
とお断りをいたします。そぉ言ぅてこい。わしは鰹節のダシを取って
おくからな。」
可内「おもろい旦那やなぁ、うちの旦那。慌ただしゅ~走り込むのか……」
可内「えぇ~、不埒でござる、不埒でござる。不埒分明、不埒フッタイでござる。」
隣家主「これは隣家の可内、慌ただしゅ~何事じゃ?」
可内「ご当家様の筍が手前屋敷へ泥脛を踏み込みました。戦国の世ならば間者も
同様なやつ、召し捕って手討ちにいたしますゆえ、その段ちょっとお断り
をいたします
隣家主「不届きな筍の振る舞い、お手討ちは止むを得ぬが……、遺骸はこちらへお下
げ渡しを願いたい。」
可内「そら何を言ぅねや、遺骸が要るんやがな……、うちの旦那、鰹のダシ炊いて待
ってまんねやが。」
隣家主「何ならば、ダシもろともにても苦しゅ~ない。
可内「さいなら……、向こぉのほぉが一枚上手やで。」
可内「え~、行て来ました。
武士「ん、何と出あったな?
可内「『不届きな筍、お手討ちは止むを得ませんが、遺骸はこちらへ下げ渡して
くれ』言ぅたはりまっせ『うちの旦那、鰹のダシ炊いて待ってまんねん』
言ぅたら『ダシもろともにても苦しゅ~ない』言ぅたはりますが。」
武士「ふん、敵もなかなかやるのぉ……。もぉ一度行ってこい『不届きな、けし
からん筍は既に当方において手討ちにいたしました。遺骸はこちらにて手
厚く腹の内へと葬ります。骨(こつ)は明朝、高野へ納まるでございましょ。
これは筍の形見じゃ」と言ぅて、この竹の皮をばらまいてこい。
可内「段々オモロなってきたなぁこら……。」
可内「え~、お隣りの。
隣家主「おぉ、可内。鰹のダシは?」
可内「いやいや、せやおまへんねん。え~、あの~『けしからん筍は既に当方にい
て手討ちにいたしました。遺骸はこちらにて手厚く腹の内へと葬ります。骨
は明朝、高野へ納まるでございましょ~。これは筍の形見でございます。」
(バラバラ、バラバラバラ)
隣家主「いやはや、お手討ちに相成ったか。あぁ、可哀(かわい)や、皮ぁわ嫌。」
これ、米朝師匠の枕です。
実際に話を聞いてみると、ほんとにおもしろいし上手だなぁと思います。