夕立屋
旦那「植木屋さん、ご精が出ますな・・・
植木屋さん、ご精が出ますな・・・
植木屋さん!」
夕立「おっ、あっしのことで?あっしぁ植木屋じゃござんせんで。」
旦那「いやいや、そんなことはないでしょう。屋敷の庭で煙草を吸ってるのは、すべからく植木屋さんでしょう。」
夕立「えー、確かに、植木屋はお屋敷の庭で煙草を吸うことになってるんですけれどもね。お屋敷の庭で煙草を吸ってるのが必ず植木屋とは限らないんでさぁ。」
旦那「ほー、左様ですか。じゃ、あなたはなんなのですか?」
夕立「あっしは『夕立〜、夕立屋でござい』と、まぁ夕立屋でございまして。」
旦那「夕立屋?あまり聞かないお商売ですな。何を商いしてるんです?」
夕立「へい、お長目、お代をいただいて雨を降らします。」
旦那「はー、お題を。なるほどねぇ。では、『夕立』と掛けまして......
夕立「いえ、そのお題じゃなくて.......もう、お屋敷の旦那っテェのはわがまま.....
わかりました。では、『夕立』と掛けまして」
旦那「ん、夕立と掛けまして?」
夕立「『あっしが酒飲んで朝帰り』と解きます。」
旦那「ふん、そのこころは。」
夕立「女房のカミナリが落ちます....って、そうじゃなくって、お足、お金をいただくんです。」
旦那「へー、左様か。では、どのようになってますか?」
夕立「へい、松、竹、梅と別れてまして。」
旦那「ほー、でその松というのはどういうものなのか?」
夕立「へい、松というのはお屋敷だけでなく、辺り一帯に雨を降らせやす。」
旦那「ほー、で竹というのは?」
夕立「こちらのお屋敷だけに雨を降らせやす。」
旦那「へー、そんなことができるんですか。で、梅というのは?」
夕立「ジョウロで水を撒きます。」
旦那「植木屋さん、精が出ますな。」
夕立「だから、植木屋じゃないって...確かにね、
植木屋はジョウロで水撒きますけどね。ジョウロで水を撒くのが植木屋とは限らないんです。」
旦那「ほー、左様でございますか。では、金に糸目はつけません。その松というのを一つお願いしますよ。」
夕立「ありがとうござんす。松でござんすね。」
というと、すっと立ち上がり、胸のところで訪印を組んだかと思うと、一点にわかにかき曇り、
ボツ、ボツ、ボツ、ザーッと降り出し、
しばらく降ってたかと思うとスーッと止んだ。
旦那「いやぁ、降りましたな。これは見事。とても人間業とは思えない。」
夕立「恐れ入ります。実は、あっしは人間ではございませんで、天に住む辰でございます。」
旦那「辰?あー、聞いたことがあります。龍というやつですね。なるほどなるほど。龍というのは雲を自在に操り、雨を降らすことができると...
ときに植木屋さん、お神酒はお上がりか?」
夕立「だから、植木屋じゃな....私にお神酒?お神酒でしたら、この時期は稼げなくなりやすので、呑まねぇことにしてるんです。」
旦那「ほー、そらまたどうして?」
夕立「辰が寅になります。」
お後がよろしいようで。
夏は必ず水分補給。